2014年6月3日火曜日

ANNA GRIFFINのカード(3)キャンドルメーカー

間が空いてしまいましたが、連載(?)再開です。
今回はお取引に至らなかった、とあるキャンドルメーカーとの交渉のお話です。

【今までのお話】
ANNA GRIFFINのカード(1)出会い
ANNA GRIFFINのカード(2)カタログをください

☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜

「Take your wayかぁ。いいこと言ううなぁ」
私は、彼の言葉をかみしめながらホテルの部屋に戻りました。

自室の前まで来てカードキーを取り出した途端に、大切なことを思い出しました。
「カタログをくださいって念押しするのを忘れた!」

ああ、私はやっぱり素人バイヤー。おまぬけな話ですが、今更仕方ありません。
明日の商談に集中!です。

私は落ち着くためにシャワーを浴びてから、改めて今までのやり取りを思い出しました。

☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜

私がそのキャンドルを発見したのは、アトランタのアメリカズマーケットに初めて足を踏み入れた日の午後でした。

そのキャンドルメーカーのブースは、そこだけデパートのような高級感のある売り場になっていました。
ティーライトキャンドルから巨大なガラスポットまで、大小さまざまなサイズのキャンドル。
色はシンプルに白だけなのですが、香りはざっと50種類。
どの香りも控えめでセンスが良く、心地よい香りです。
どの香りにもひとひねりある名前と物語がついていて、心惹かれます。

そして何より、ラベルや展示用の什器、小売店向けのサービスが充実。
コンセプトや経営理念などもシンプルで明確です。

最低注文金額は750ドルから。
他のお店に比べると少々高額で悩むところですが、出せない金額ではありません。

この完成度合なのに、日本に販売代理店は未だないのだそう。
ためしにブランド名を入力してネット検索してみましたが、確かに日本語のページは見当たりませんでした。

まだ無知な新規バイヤーそのものだった私は、
「私はなんてラッキーなのだろう。アトランタまで来るとこんな大チャンスがころがっているのだ!」と無邪気に心をときめかせていました。

接客してくださる方は、メーカーでなく代理店の方で、年配のおじさま・おじいさまが中心。
「おお、きみは日本からはるばる来たのかね。一人で?! アトランタへようこそ!」
「きみの英語は上手だね。僕なんて生まれてから今まで英語しか話したことがないよ」
「本当だ、いい英語の先生についたのだろう」
と暖かく迎えてくれました。

説明もシンプルかつ明確で分かりやすく、
「この代理店とならよいお付き合いができそうだ」と感じました。

唯一気になったのは「日本に輸出できますか?」への回答。
「ああ、できるはずだよ。なぁ?」
「さぁ。マイクに確認した方がいいんじゃない?」
と、急に曖昧になりました。

気になった私は、このキャンドルメーカーの公式サイトから質問をしました。
「私はあなたのろうそくを日本へ輸入することができますか?
日本に既に代理店があるのならば教えてください」と。
すると、超長文の格調高い英語で返信がありました。

そのメールにはこのように書かれているようでした。
「南北アメリカ以外は、我々イギリス代理店の配下である。
したがって、御社はイギリス代理店である私と契約を結ぶ必要がある。
今までにも日本の業者から問い合わせがあったが、我々が期待する規模でなく
取引は成立していない」

アメリカで作っているろうそくなのに、イギリスから輸入しなければならないって、本当に?!

英語力に自信のない私は、英語の得意な友人に助けを求めることにしました。
簡単に事情を説明し、「ちょっと訳してくれませんか?」とメールを添付します。
ちなみに、パソコンを持ってこなかったので、全てiPhoneでのやり取りです。
何度も手がつりました。

時差が上手く作用し、翌朝には友人から返事が届いていました。
「そう、正解。あなたはイギリスの代理店から仕入れなければならないみたい」
とのこと。なんてこったい。

アメリカから直接輸入するだけでも、最低注文金額と送料が不安なのに
イギリスを経由していたら採算が不安すぎます。

諦めきれない気持ちを抱えたまま、他のキャンドルメーカーを探すべく
ギフトショーのカタログを見直していると、
同じ代理店が、臨時出展エリアにもブースを出していることを発見しました。

このブースに行ってみよう。
そして、何食わぬ顔をして取引できないか聞いてみよう。

アトランタに来るまでは「私はこの業界では信用も何もないのだから、せめて誠実でいよう」
と心に決めていた私の初めての悪巧みです。

当初、この作戦は成功したかのように見えました。

臨時出展エリアブースには今までに見たことのない若く体格の良いスタッフがいて、
愛想よく対応してくれました。
そこで、私は思い切って聞いてみることにしました。
「私は日本に住んでいるの。日本に輸出する場合、送料以外に特別なチャージは必要かしら?」
と。

すると彼の表情は一転して、厳しい顔で言いました。
「No。日本には輸出できないよ。アジアはイギリスの代理店を通してもらうことになっている」
私はあえてとぼけてみました。
「えっ、そうなの?
他のブースでは日本に輸出できるようなことを聞いたのだけれど・・・」

彼はにやりと笑って、ネームプレートを裏返して言いました。
「実は僕はメーカーの人間でセールスマネージャーだ。セールスルートは僕の責任下にある。
もし、ビルディングXのブースの責任者がそういったなら、僕は彼を契約違反で注意しなければいけない」

メーカーの人間か代理店の名札をつけてスタッフをしているなんて!
私は驚きながらも慌てて付け加えました。
あの心優しい代理店のおじいさまたちが怒られてしまっては大変です。

「えっ、そうなの?!私の英語は不確かだから、聞き間違えたのかも。
今日もう一度行って確認してくるわ。
だって私はどうしてもこのキャンドルを私の顧客に届けたいのだもの」

彼の表情は少し和らぎましたが、目は笑っていません。
「そうだね、僕も今日彼らのブースへ確認に行くよ」

大変なことになりました。
彼は、私が公式サイト経由で送ったメールの存在も知っているのかもしれません。
私は彼より早く代理店ブースへ向かわなければと思いました。

しかし、アメリカズマートのビルは広大で、複雑です。
3つのビルがところどころでつながっているのですが、そのつながり方が複雑。
しかもこの日は重要な通路が封鎖されていて、大混乱。
常勤らしきスタッフですら
「えぇーっ?!私はどうやって私の売り場に戻ればよいの?」と警備員に聞いている始末です。

私がクタクタになって、常設ブースの代理店にたどり着くと、幸いあのセールスマネージャーはまだ到着していないようでした。

☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜

長くなりすぎたので、別の記事へ続きます。

アトランタのホテルのロビー。
不安でいっぱいだった私を、黄色いお花が励ましてくれました。

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