2013年11月20日水曜日

お花のろうそく(5)-初の取引

アメリカから別のろうそくを少しだけ輸入してみた私ですが、
やはり、タイのあのお花のろうそくのことが忘れられません。

しかしメールの返事ももらえないのではどうしようもありません。
お花のろうそくのことは一旦諦め、
お線香だけでもこの事業をやってみよう、と様々な準備を進めました。

幸運にも、2012年6月に中小庁の創業助成金をいただけることになり、
2013年7月にネットショップ碧香堂をオープン。

前回バンコクから持ち帰ったろうそくを大切に使いながら、
商品展開を行いました。

お線香も、素敵な色と香りで好評なのですが、
やはりこのお花のろうそくは人の目を惹きつけます。

試しにアウトレット商品として1箱だけ出品してみたところ、
あっという間に売れてしまいました。

やはりもう一度あの会社との取引にトライしたい。
そんな思いが募り、9月に東京ギフトショーへ参加するために上京した際、
ミプロに相談に行きました。
相談相手はもちろん、アトランタでもお世話になった貿易アドバイザーさんです。

「実は、注文は最低5000USDからだと言っているタイの会社に、
まずは500USDから取引させてくれないかと打診したいのですが」
と相談したところ、
「うーん。それはもう、当たって砕けるしかないね」
とのこと。

そして無理してでも1000USDは出すべきなのかと悩む私に
「創業間もない時期に資金面で無理をするのは決してだめだ」
と諭してくださいました。
「でも、大丈夫。あなたはアトランタで交渉のコツをつかんだと思うよ。
事前に『また行くよ、よろしく』とだけメールを出しなさい」
とアドバイスをいただきました。

半信半疑でメールを出してみたところ、なんとすぐにお返事が。
そこには「わざわざ知らせてくれてありがとう。
初日に来てくれれば、サンプルを上げれるよ」
と書いてありました。

そこで「最新のカタログを送ってください。事前に注文を吟味したいので」
とメールを打ち、私はタイへと旅立ちました。

今回は「タイ王国貿易センター」を通じて登録したせいか、
スムーズに入場できました。

それどころか、ランチクーポンまで付いてきて、ゴージャスなお昼をいただくこともできました。
バイヤー用ラウンジも使えます。
もうフードコートでノートを広げる必要もありません!

私は意気揚々とブースに乗り込み、まずはサンプルの交渉です。

最初は「やあ、ようこそ。気に入った商品の写真を撮ってください」としか言われませんでしたが、
さりげなく「メールをありがとう。初日に来ればサンプルをくださる
とおっしゃったので初日に来ました。サンプルを選んでよいですか?」とアピール。

「ああ、どうぞ」とのこと言われたので、私はさっそくサンプルを選び始めました。

彼のろうそくはますます美しくなり、パッケージも改良されていました。

やっぱり素敵!
このろうそくを、絶対に手に入れたい。

夢中でサンプルを選んでいると、彼の顔が曇っていることに気が付きました。
あれ、ひょっとして私はサンプルを選びすぎ?

ふとブースを見渡すと、バックヤードに、他のバイヤー用でしょうか。
それぞれポストイットをつけた商品が1袋づつ積まれていました。

やっぱり1人1つぐらいが相場なんだ。しまった。

そこで私は内心慌てながら言いました。
「ほんの少しの注文だったら、私のバンコク滞在中にこのろうそくを
受け取ることができますか?もちろんお金は払います」と。

しばらく考えて彼は言いました。
「そういえば、お前は3年前にもやってきたな。よし、いいだろう。商品を選べ」

やった!交渉成立です。

しかし問題が生じました。

代金総額の30%のデポジットをその場で支払わないといけないのですが、
その時私は十分なタイバーツを持っていませんでした。
昨年まで会場にあったはずの銀行は姿を消しており、両替をするなら
タクシーで最寄りの駅まで行かないといけないそうではありませんか。

ブースに戻って相談すると、
「いいよ、今日中にATMから払い込んでくれ、そしてそのレシートをSMSで送ってくれ。
3年待ったんだ。1日くらい待てない訳がない」と言われました。

3年前の私を覚えてくれていたのはうれしいけれど、メールを無視したのはそっちじゃ?!
ていうかATMからの振込ってどうやるの?!と思いながら、
私は笑顔で感謝を伝えて会場を後にしました。

タイ在住の友人の助けを借りて、なんとか払い込みを終え、
翌日注文書のコピーをもらおうと再度ブースに出向いたところトラブル発生。

「お前の注文書は既に工場に送ってしまった。コピーは渡せない」
と言うではありませんか。
彼は引き渡しの日に来れないと言っていたので、
注文書のコピーがないと、いざという時に私は困ってしまいます。
なだめすかして、彼のスタッフにもう一度注文書を書いてもらっていると、
彼は明らかにイライラしてきてしまいました。

展示会期間中の時間はとても貴重。
出展者の方は少しでも多くのバイヤーと会話をしたいはずです。
しかし、日本人の私としては、ドキュメントがなければいざという時に
誰にも申し開きをすることができず困ってしまいます。

なんとか注文書のコピーを手にした私ですが、
途中で彼からかなり強い言葉も投げかけられてしまいました。
彼は「はやりこんな小口取引をするんじゃなかった」と
後悔しているのかもしれません。私はすっかり凹んでしまいました。

そんな私は、翌日お線香の会社の工場見学に出かけました。
工場見学の最後に、お線香会社の担当者が口を開きました。
「昨日、あなたのキャンドルメーカーのオーナーが私たちのブースに来た」
と。びっくりする私をしり目に、彼女は理路整然と話し始めました。
「彼は、あなたが小さい取引なのに多くの条件を言うのでイライラしてしまった、
と言っていた。
彼は既に大きな顧客を持っており、通常もっと大きな金額でしか取引しない。
しかし、彼はあなたの創業を手伝いたいと言っていた。
彼を信じてもよいと思う」と。

私のお線香の会社と、彼のろうそくの会社のブースはすぐ近くに並んでいました。
私はろうそくのピックアップの日を決める際に
「この日は、あのお線香会社の工場に見学に行くのでどうしても来れない」と断っていたのです。

彼はそれを覚えていて、私が去った後、
お線香会社のブースに足を運んでくれたのでしょう。
彼のその行為にも、それを私に伝えてくれるお線香会社の彼女にも
私は心を打たれました。


正直、本当にろうそくを引き渡してもらえるのか不安になっていた私ですが、
彼女のこの報告のおかげで、
「そうだ、あんなきれいなキャンドルを作る人が不正をする訳がない」
と気持ちを取り戻すことがでいました。

ろうそくの引き渡しの日、恐る恐るブースを訪れると、
なんと彼の姿がありました。

用意されていたろうそくは注文通りでパッキングも完ぺき。

私は彼に「私は以前アメリカからろうそくを輸入したのだが、
パッキングが不十分で痛い目にあった。
でもあなたのパッキングは完璧だ」と伝えました。
「どうだ、俺のろうそくが一番だろう」と得意げな彼。

私は次回は規定通りの金額で注文することを約束して会場を後にしました。

こうして、私とお花のろうそくメーカーの初の商取引が完了しました。
私があのお花のろうそくと出会ってから、実に3年の月日が流れていました。

タクシー売り場で積み上げられる、私の荷物。
こんなに大きな荷姿になってしまいました。


創業物語・お花のろうそく編はこれにて完了。
こうして、皆様にお届けできるようになったお花のろうそくがこちらです。

お花のろうそく(4)-アメリカでの修行

こうして私は、晴れてアメリカでの見本市に参加できることになりました。

会場はアトランタのアメリカズマーケット。
3ブロックにわたってビルが建っており、その中に5000店もの販売代理店が入っています。

バンコクでの反省を踏まえて、与えられた3日間では十分に会場を回ることができないと判断。
前後に自腹でホテルを取り、1週間滞在することに決めました。

アトランタは、バンコクと違って初めての土地で緊張します。

英語も早くて聞き取るのが大変です。
初日に警備員に呼び止められたと思って慌てて書類を出したら、
ぷっと笑われてしまいました。
「僕はただHelloとあいさつしただけだよ。登録はあっち」
とのこと。

うれしいのは、海外からのバイヤーのためのラウンジが使えることでした。
会場の一角のホテルのようなラウンジにコーヒーや軽食が用意されていて、Wi-fiも無料。
パソコンやプリンターも使うことができます。

バンコクとの待遇の違いに感激していたらミプロの方に
「どこの展示会でも海外バイヤーのためのラウンジはありますよ。
バンコクでも使えたはずです」と笑われてしまいました。

私は1週間毎日このビルに通いました。
日没後は治安がよくないと聞いていたので、朝1番に会場入り。
分厚いカタログから「Made in USA」のキャンドルメーカーをピックアップし、
タイムリミットの午後5時まで、片っ端からブースを訪れました。

中には、あのタイのお花のろうそくメーカーの商品を扱っている会社もありました。
こんな遠くのアメリカまで流通しているとは…。

いくつかの失敗をしでかしながら、私は貿易アドバイザーさんと
親切なブースのスタッフさん達から
「細かい条件は、帰国後メールでつめる」
「現地で確認すべきは、商品の詳細」
「取引相手に自分を印象付けて信頼関係をつなぐ」
ことの大切さを学びました。

7日間の期間中には、いろいろな出来事がありました。

大きなメーカーのCEOさんとの会談を偶然ゲットできてしまい、
あわてて徹夜で資料をつくったり、
商談相手のメーカーの男性に突然食事に誘われて困惑していたら
「心配するな、俺たちはゲイだ」と言われ、さらに困惑したり。

毎日通うバイヤーは少ないらしく、期日の後半になると、
ラウンジ担当の女性や入り口の警備員にも顔を覚えられてしまいました。
それどころか、道に迷っている他のバイヤーにフロア案内ができるまでに。

最後から2日目の午後、私はほぼすべてのブースを回り終えました。
そこで初日に「日本に輸出できるかどうか分からないわ」と言われてあきらめていた
ブースに再度出向き、再度交渉しました。
ブースの担当女性は、困ったような笑顔をうかべ
「日本に輸出できるかどうか分からないの」と再度私をやんわりと拒絶します。
でも私は負けません。
「ええ、分かってる。
でもせっかく日本から来たのだから香りをテストさせて。
私、このアロマキャンドルがこのビルの中で一番気に入ったの。
コーヒー豆はあるかしら?」
とあくまでフレンドリーかつ強引にテスティングを開始。
鼻のリフレッシュに使うコーヒー豆を片手に全30種類の香りを全て
メモを取りながら確認しました。

そんな私を見ながら、担当の女性と隣のブースの男性が
「彼女は初日には簡単に追い返されていたのに、
今日は食い下がってテスティングまでしている」
「サンプルまでゲットしたのよ。コーヒー豆も要求された」
「日本人には珍しい積極性だね。彼女はよいバイヤーになるよ」
「そうね。きっと」
と話しているのが聞こえた時には、してやったりと思いました。

(実は、このメーカーは既に日本の大手商社と取引をしていたので
私のこの行為は全くの無駄だったのですが。)

最終日に気分よく歩いていると、警備員の男性に呼び止められました。
初日に英語が聞き取れなかった私を笑った男性です。

「君は毎日朝早くから来てよく歩いたね。
初日は僕の挨拶も分からずに困っていたけれど、いろんな友達もできたみたいだ。
君のビジネスはきっと成功するよ。来年もまた来てね」
と微笑む彼。

その笑顔を見た時、私はバイヤーとして少しだけ成長できた気がしました。

こうして私は、アメリカ南部のホスピタリティーに心を温められ、
私はアトランタを後にしました。

タイからろうそくを持ち帰り、
300円の消費税を支払っていたので参加できたこの見本市。

「とてもたくさんの偶然と親切に助けられた。
きっと私はこの事業をやるべきなんだ。
どうすればいいのか、今は全く分からないけれど」
と思いながら。

最終日にかろうじて撮影したビルの外観の一部。
会場内は全て撮影禁止です。



次の記事へ続きます。

お花のろうそく(3)-ミプロのサポート

帰国後、すぐにお花のろうそくのメーカーにメールを打ちました。
しかし返事がありません。

ジェトロの相談窓口で相談しましたが、
「貿易は、相手もこちらも満足しないと取引は成立しない。
あなたは商品を気に入ったのかもしれないが、
向こうはあなたを気に入らなかったのでしょう。
もっと大きな会社との取引を希望しているとか。」
と言われてしまいました。

私の起業は、あのろうそくとお線香があることが前提です。
「どれだけよい商品でも、諦めなければいけないこともある」
と言われましたが、諦められません。

「どうしたものか」と悩んでいた私にミプロからメールマガジンが届きました。
東京での「海外展示会・見本市での雑貨買付け基礎実務」
というセミナーの開催を知らせるものでした。

まさに、私が悩んだ「見本市での買い付け」の実務を学べる講座です。

ミプロは、小口輸入をサポートする団体で、東京に窓口があります。
セミナーの参加費は1000円と格安ですが、問題は交通費。
東京まで新幹線で行くとかなりの出費です。

しかし、このまま届かないメールを待っていても仕方ありません。
それに無駄に何回もタイに行くよりは効率がよいでしょう。
私は思い切って東京まで行くことに決めました。

セミナーに行く直前に、ようやくお花のろうそくのメーカーからメールが届きました。
そこには、1回の最低注文金額が高額であることと、
既に日本の大手雑貨店との契約があることが書かれていました。

ううむ。これは難しそう。
それに、見本市で私が気に入った商品がカタログに記載されていません。

私は、条件にはあえて触れずに、見本市での写真を添付し
「私が気に入ったこの商品はいつから注文可能ですか?」
とだけ問合せをしました。
お礼の言葉と、いかに自分があなたのろうそくに魅せられているかを添えて。

しかし、返事はありません。

一方、東京で開催されたセミナーは私にとって有意義なものでした。
「アジアの見本市での買い付けは1回の注文が高額になる。
欧米の見本市では、卸売業が発達していないこともあってメーカーが直接小売店に売る。
そのため少額でも注文を受け付けてもらえる」ということを知りました。

そして「アメリカの見本市への買い付けツアーが開催される」と説明がありました。

専門家も随行して、商談をサポートしてくれるとのこと。
応募条件に「法人であること」と書かれていたので諦めていたのですが、
セミナー終了後にミプロの方にご挨拶したところ、
「過去には個人で参加した方もいらっしゃいますよ。
アメリカ大使館の厳しい審査を通過すれば参加できます。
チャレンジしてみては?」と勧められました。

専門家に同行してもらえれば、私の何がいけなかったのか、
はっきり理解できるでしょう。
これはまたとないチャンスです。

「よし、ダメモトで応募してみよう」と応募してみたのですが、
この審査が厳しいのなんの。

要するに、アジア各国からの参加は「コピー業者じゃないのか」と疑われる訳です。
その疑いを晴らすために「本当に小売をしています」ということを
証明しなければならないのです。

困りました。
私には商売の実績というものは皆無なのです。

受付を担当されているアメリカ大使館の担当女性からも
「あなたの場合、バイヤーで登録するのはかなり困難です。
ゲストでなら登録可能です。
しかしゲストでは買い付けができない可能性が高いです」
と言われてしまいました。

バイヤーで登録するには、
「商工会の会員登録や、事業税の納付記録など、公的な記録が必要」
とのこと。

公的な記録・・・・しばらく考えて、はたと思いつきました。
私の手元には、タイからあのろうそくを持ち込んだ際に税関で支払った
消費税の領収書があります。

私は、タイに行く前にジェトロの方に輸入手続きを相談していました。
その際、
「もし買い付けができたなら、帰国時は手続きを学ぶためにも正々堂々と申告すべき。
通常なら20万円以下の物は見逃されるから、コスト的にも問題ない」とアドバイスされ、
それに従ったところ、大方の予想に反してしっかりと課税されてしまった。

通常ならば見逃されるであろう小さな金額だったのですが、
・タイバーツで記入すべきところを、私は誤って日本円に換算した金額を記入していたので
3倍の金額で、税関審査官に認識されてしまった
・私を担当したのが新人らしい税関審査官で、上司に判断を求めた
・上司らしき方に輸入の目的を聞かれたので、私は正々堂々と「今後販売してみたいと考えていて、これはそのサンプルです」と答えた
の3点が重なって、300円だけ消費税を徴収されたのです。

たかが300円、されど300円。
これは立派な「消費税納付」の証拠となるのではないでしょうか。

私は、この領収書に加え、バンコクの展示会で使った
「何故私はこのビジネスを始めるか。
どのようなビジネスモデルを考えているか」の説明資料。
そして、「なぜアメリカで買い付けをしたいか」と「今後のビジネス計画」
を添えて提出しました。
日本語だけでなく、英訳も添えて。
日本語の資料に英訳を加える作業は、SE時代に行った経験があったため比較的スムーズにできました。

そして私は、見事参加を許されることになりました。

それまで厳しい態度だった大使館の女性が電話で
「書類を見ました。グーーレイト!
よく短い時間でこれだけの資料を揃えましたね。 
おそらく先方も許可するでしょう」
と弾んだ声で話してきてくれた日のことを、私は今でも鮮明に覚えています。

当時使用した資料の表紙。

 

余談ですが。
今年もこのツアーに参加しようと申し込んだところ、彼女の突然の訃報を知りました。
事業の成果を報告したい方の一人だったので、
十分な成果を報告できないままであることを悔しく思います。
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2013年11月19日火曜日

お花のろうそく(2)-再会

バンコクで素敵なお線香とろうそくと出会ってから約2年。

日本に戻った私は漠然と「こんなお線香やろうそくが日本でも買えたらいいのに」
と考えていました。

「自分で輸入販売をやってみようか」と思わないでもなかったのですが、
一方で冷静に「私に輸入や小売りの経験はない。
それに、子供を亡くした母親というのは、現代日本ではマイノリティ。
商売として成り立たないだろう」と判断していました。

私はそれまでその職業人生をずっとIT業界でSEとして過ごしていました。
輸入も小売りも、どうやってよいのか全く分かりません。

しかし、東日本大震災の後、子供を亡くした親仲間が
たくさん生まれてしまったことに心を動かされました。

そしてTVで、お子さんが見つかった場所に
様々なろうそくを灯しておられるご夫婦を見た時、
「私はあのろうそくを輸入しなければ」と思いました。

日本でも個性的なろうそくは手に入ります。
けれど1つ300円から500円ととても高価。
カメヤマローソクさんが「故人の好物」シリーズを発売されていますが、
どれも和風で年配の方を想定した商品です。

「子供のために物を買う」という行為は、親にとって喜びにあふれた行為です。
しかし子供を亡くすと、そういった楽しみから拒絶されてしまいます。
唯一残されるのは、お供えするお線香やろうそくを買うことくらいになってしまいます。

あの人たちが、可愛らしいあのお花のろうそくを灯せたら、
ほんの少しは心が慰められるのではないだろうか。

そして、そのような商品を私がお届けすることによって、
「あなたと同じ経験をした人がここにいます」と
伝えることも可能になります。

死別直後、同じ経験をしたことがある人との出会いは、
私の心を慰めてくれました。
「この辛い経験をしているのは自分一人ではないのだ」と思えると、
なんとか明日も生きてみようと思えるのです。


その後、転職や紆余曲折を経て、2012年の夏。
私は「このお線香とろうそくを自分で輸入して売ってみよう」
と決意しました。

「まずは、商品を入手するのが先決だ」と思いました。
輸入ってどうやればよいのでしょう。

私はそれまでの経験で
「入門書を3冊読めば、その業界の概要は把握できる」
ということを知っていました。

そこで、とりあえず大きな書店や図書館で
「個人輸入の始め方」「貿易入門」的な本を
手当たり次第に入手して読んでみました。

すると、どうやら「国際見本市に行って商品を開拓する」のが
個人起業の王道であることが分かりました。

そして「世界の主な見本市」として、
私が幼馴染に連れて行ってもらった、あのバンコクのショッピングイベントが
記載されていました。

もう、これは運命です。

最後の職場を傷病で退職した私には、
手術へのお見舞金として医療保険が払い込まれておりました。
なんとなく使う気になれず、ずっと保管してありました。
「あのお金を使って、もう一度バンコクに行こう」
そう決めました。

イベントのサイトを検索すると英語ページがあり、
「Buyer」のタグから必要事項を記入したところ、
あっけなく「バイヤー」として登録することができました。

幸い、お線香の会社はこのイベントに参加しており、
メールをしたところ簡単にアポイントメントを
とることができました。

問題は、お花のろうそくの会社です。
ショップ名も会社名も、商品名も分かりません。
手がかりは、手元に残っているろうそく実物だけです。

仕方がないので、ろうそくを持参して見本市の会場へと向かいました。

会場はとても広く、時間は限られています。
あてなく動くのは得策ではありません。
受付を担当してくれた男性に、
「私はこのキャンドルを探しに日本から来ました。
何か御存知ではありませんか?」と聞いてみましたが、
「私には分かりません」と言われてしまいました。

私があまりにも不安な顔をしていたのでしょう。
隣にいた女性が「キャンドルメーカーならこのエリアに多くありますよ」
と、会場マップを手に教えてくれました。

会場マップを手に、いざブースへ。

さんざん歩き回った挙句、ついに私はそのブースを見つけることができました。

お花のろうそくはますます素敵になっており、
ブースは2年前の3倍くらいの広さになっていました。

うれしくて駆け寄り、練習してきた英語で言いました。
「私はこのキャンドルを探しに日本から来ました。
今、お時間よいでしょうか?」

緊張と経験不足を悟られないように、明るく・優雅に・感じよく。

すると、オーナーの男性は微笑みながらこう言いました。
「ようこそバンコクと私のブースへ。
でも、今からTVインタビューがあるから15分後にしてくれないか?」

彼は、2年前にジャンバーを着ていたあのおじさんと同一人物のはずですが、
ピンクのストライプのワイシャツを着て、高そうなネクタイを締めています。
そして、ブースもデコラティブに装飾されており、
ショップカードなども完備されています。

あの「お花のろうそく」がなければ、同じ会社のブースだとは信じられません。
それにTVインタビューって…!

インタビューが終わるのを待って商談させていただきましたが
「今日ここで気に入った商品の写真を撮って、後はメールで注文してくれ」との一点張り。
「カタログも取引条件もメールで送る」とのことです。

事前に読んだ本では
「日本の見本市は情報収集と名刺交換が主だが、
海外の見本市は実際に注文する場所。
その場で注文する決断を下さないと、決定権のない人間だと思われ相手にしてもらえない」
と書いてありました。

ただでさえ、経験も実績もない私です。
「絶対にその場で注文!」の気持ちでいたのですが、
なんだか話が違います。

その後、タイ・ジェトロの方に聞いたところ
「あの会社は2年前にニューヨーク近代美術館のミュージアムショップに採用され、急成長しました。
日本にも大きなお客さんを持っているので、相手にしてもらうのは大変でしょう。
それよりも、最初は市場で直接買い付けてハンドキャリーする方がよいのでは?」
とのこと。

目の前が真っ暗になりました。
大手の会社が取引をする際には、価格競争を避けるために「独占販売権」を得たがります。
もし、その会社が日本国内での占有権を欲していたら、
私はこの会社と直接取引することがでいません。
帰国後メールしても相手にされる確率はとても低いということです。

2年前と言えば、私があのろうそくと出会った年ではありませんか。
私がぼんやりしている間に、こんなことになってしまうとは。

私は、このろうそくを入手できなければ、
この事業を諦めて、再就職しようと考えていました。
他のブースや市場もくまなく探しましたが、
遺族の心を慰められるようなろうそくには出会えなかったからです。

ホテルに戻って考えました。
せっかくバンコクまで来たのに、どうしよう。
やっぱり素人には無理なのだろうか。
いや、それでも手ぶらで帰るわけにはいかない。
せめて、自分と仲間の分のろうそくを買って帰ろう。

私は、急遽後半のショッピングデーに買い付けをすることに決めました。

朝一番に会場入りし、一般のお客様にまじってさりげなく小売価格を視察。
やはり卸の仕入値よりは高くなります。

お昼前のフードコートに陣取り、ノートを広げて必死に計算をしました。
使えるお金、他の製品との価格比較、
スーツケースで持ち帰れる量、EMSで送る場合の送料etc。
しかし、どうすればよいのかさっぱり分かりません。

どれくらい時間が経ったのでしょうか。
「こちら、よろしいですか?」
日本語で話しかけられ、ふと目を上げると、フードコートは大混雑していました。

いつのまにかお昼時になり、私に声をかけた日本人女性は
家族でランチを食べる席を探しているようでした。
その女性の家族なのでしょう。息子と同じくらいの年ごろの男の子が、
必死でメモを取る私を不思議そうに覗き込んでいました。

「あ、ごめんなさい。もう行くのでどうぞ」
私は慌てて席をゆずり、会場に向かいました。

久々に日本語で話したせいか、なんだか肩の力が抜けました。

この価格で仕入れても商売が成り立つとは考えられない。
とりあえずサンプル代わりに購入しよう。
「お土産をたくさん買う」のと同じだ。
ショッピングと値切るのなら、ちょっとは得意だ。気軽に行こう。

そう心に決めて、混雑する会場へと向かいました。

ブースにはオーナーの彼とその家族もいて
「なんだよメールでオーダーするんじゃないのかい?」と言われたので
「サンプル代わりに少し売って!」と言い返し、
商品を吟味して購入しました。

まあ、顔は覚えてもらえたかな。
それだけが今回の収穫になるかもしれないけれど。
そう思いながら、なんとか入手したろうそくをホテルまで運びました。

これが私の見本市デビューです。
(今にして思えば大胆な話ですが、私は国内の見本市にも参加したことがなかったのです!)


その時に購入した箱入りのお花のキャンドル。
運んだ際に箱がへこんでしまいました。


次の記事へ続きます。

お花のろうそく(1)-出会い

10月4日の記事で、碧香堂のお線香との出会いについて書きました。

実は、同じ週末に碧香堂のお花のろうそくとも出会っています。

☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜

3年前、タイはバンコクのBITECというイベントホール。
そこでは、年に2回のショッピングイベントが開催されていました。

このイベントは、実はギフトショーと呼ばれる国際見本市。
バンコクのギフトショーは独特で、後半の日程は一般のお客様にも開放され、
どなたでもお買い物を楽しむことができます。

バンコクにたくさんいらっしゃる駐在員の妻・略して駐妻さん達には
「見本市に出るような高品質な商品が、エアコンの効いた屋内で見比べながら買える」
と大人気。

年に2回のイベントということで、当時バンコクに住んでいた
私の幼馴染もこのイベントをとても楽しみにしていました。

2010年の10月。
私は、気合の入った幼馴染に引きずられるようにして
会場を回りました。

「子供用品を見る」という友人と別行動をした時に、
私はとあるブースを見つけました。
そのブースでは、小さなお花のキャンドルを売っていました。
ティーライトキャンドルと呼ばれるよくあるサイズの小さなろうそく。
けれど、その中には色とりどりの、さまざまな種類の花が咲き乱れていました。

そのかわいらしい姿を見た時、私は
「お誕生日にこんなろうそくを灯したら嬉しいと思う。」
とひらめきました。

「命日よりもお誕生日を大切にしたい。
死んでしまったけれども、生まれてきてくれた日を大切にしたい。」
そう考えた私は、毎年息子の誕生日にケーキや生花を用意していました。
しかし、ケーキは食べてもらえませんし、お花は枯れてしまいます。
それが悲しくて、ここ数年は誕生日をなんとなく過ごしてしまっていました。

でも、このキャンドルがあれば。
同じように子供の誕生日を祝っている、ネット上のお友達にも
きっと喜んでもらえる。

そう思った私は、いくつかのキャンドルを選び、購入。
今後もぜひこのキャンドルを買いたいと思い
「ショップカードはありますか?」と聞きました。

すると店番をしていたおじさまは、
「そんなものはない」とすげないお返事。

よく見ると、おじさんはジャンバーを着て落ち着かなさそうに座っており、
ブースも、テーブルに白いテーブルクロスをひいただけの簡素なものです。

正直に言って、他のブースより少し見劣りがります。

中にはこういうお店もあるのだ、仕方ない。
そう思いながらこのショッピングイベントを後にしました。

その時に購入したキャンドルの一部です。


次の記事へ続きます。

2013年11月14日木曜日

グリーフケア・アドバイザー講座

こんばんは。碧香堂店長のかとうです。

私は、タイに旅立つ直前の10月11日に
「グリーフケア・アドバイザー」講座に参加してきました。

この事業をやっていく上で、
グリーフケアの正確な知識が必要になると思ったからです。

「グリーフケア」の「グリーフ」は「悲嘆・悲しみ」のことで、
特に死別の痛みを差します。
死別の痛みを癒すには、特別なケアが必要です。
この特別なケアを「グリーフケア」と呼びます。

しかし、日本では、グリーフケアはあまり重要視されていません。

周囲の方に、
「いつまでも泣いていたら故人が悲しむからしっかりしなさい」
「早く納骨しないと、成仏できないよ」
「喪中の葉書もきちんと出しなさいよ」
と追い立てられ、辛い思いをした方も多いのではないでしょうか。

この講座は、日本グリーフケア協会が実施しているもので、
基本となる講座のテキストは、もともとは看護師さん向けに書かれたもののようでした。

参加者は、医療関係の方と葬儀関係の方、介護関係の方が中心とのこと。
少なからず、当事者である遺族もいたようですが、
ワークなどには、遺族にはつらい内容も含まれていました。
あやうくフラッシュバックしかけることも何度か。

それでも一日頑張って、様々な訓示と刺激を受けました。

中でも、
「英国にはクルーズという国家的な組織がグリーフケアを担っている」
という事実には驚かされました。

組織のトップはエリザベス女王で、
組織の運営には、政治家や英国国教会だけではなく、
カトリックやユダヤ教などの関係者も加わり、
宗教横断的なサポートが実施されているそうです。

英国の国家的な死別のケア組織HP:Cruse Bereavement Care

また、アメリカでは、各地の病院やカウンセリング施設、教会などで
誰もが気軽に死別のケアを受けることができるようです。

私自身にとっては、講座の内容はまだ刺激がつよく、
当分の間、グリーフケアをアドバイスする側には回れないと感じました。

しかし、このブログや碧香堂の事業を通じて、
グリーフケアの情報を伝えることはできます。

講座で学んだことや、
今までの経験を通じて身に着けたサバイバル術的なことを、
このブログを通じて、徐々に皆様にお伝えできれば、
と考えています。


まだまだよちよち歩きの事業ですが、
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

2013年11月5日火曜日

うれしい再購入

先日、趣味の会で碧香堂のお線香を披露させていただきました。

実は私「日本茶インストラクター」という資格を持っており、
かれこれ10年ほど「日本茶の魅力を知り広める」という活動をしております。

先月、「愛知県産紅茶研究会」の後の懇親会で、
「加藤さん、最近ご自分で事業を始められたんですって?」と聞かれ、
たまたま持っていたギフトセットのサンプルを披露。

そうしたところ「あら素敵。この場で買ってもいいのかしら?」と言われ、
お線香3袋とろうそくをばら売りいたしました。

「私も買いたいのに」「次の会にはもっと持ってきてね」と言われ、
先週末の「お茶料理研究会」に、お線香とろうそくを持参。
その場でちょっとした即売会を行いました。

短い時間でしたが、前回買えなかった方にも心ゆくまで選んでいただけました。

これだけでも嬉しい出来事なのに、
「前回買ったのがとてもよい香りだったので、同じのが欲しい」
とおっしゃってくださった方が2名も。

それぞれ、 Honeysuckle(西洋スイカズラ)Ocean(海)を再度お買い上げいただきました。

「リピートオーダーは大切」とよく聞きますが、そういった商業的な意味合いを抜きにして、
再購入していただいた時には「本当に気に入ってくださったのだ」と
感動してしまいました。

碧香堂では、「香りをネットで伝える」という難しい課題にチャレンジしています。

・マンションで毎日お線香を焚く私
・一戸建てに住む普段あまりお線香を使わない友人
・アロマテラピストの資格を持つ香りに詳しい友人
の3人で実際にお線香を焚き、
「燃焼前(スティック状態での香り)」「燃焼中」「燃焼後(お部屋の残り香)」
を詳しく書くようにしています。

それでも香りはデリケートなもの。
季節などの環境や、焚く人の精神状態によっても受け取り方は異なります。

自分自身が惚れ込んだ香りで、周囲の人たちには「いい香り」と言っていただいているのですが、
「ショップ上でもきちんと伝わっているのか」
「ご購入後、満足いただけているのか」と
不安を感じる毎日です。

そんな中、対面販売ではありますが、初の再購入をいただけたことは、
本当にうれしく、はげみに感じました。

ちなみに、今回再購入いただいたOcean(海)は特に男性に人気の香り。
Honeysuckle(西洋スイカズラ)は、15人のアンケート調査でも「嫌い」とコメントした人は一人もいないほどの鉄板の香りです。

この2つの香りははじめての方にお勧め・6種の線香セットにも入っています。