お取引に至らなかった、とあるキャンドルメーカーとの交渉のお話その2です。
【今までのお話】
ANNA GRIFFINのカード(1)出会い
ANNA GRIFFINのカード(2)カタログをください
ANNA GRIFFINのカード(3)キャンドルメーカー
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
私は息を切らせながら心優しきおじさま達が運営するブースにたどり着きました。
そんな私を見て、顔見知りのおじいさん販売員はびっくり。
接客中だったのに商談を中断して私に声をかけてくれました。
「おや、ジャパニーズガール、こりゃまたようこそ。
今日は一体どうしたんだね?」
私はメーカーのセールスマネージャーの彼が来る前に責任者に話を通しておかなければと思い、焦りながら説明しました。
「Bobはいますか?私は今すぐに彼と話をしたいのです。
このキャンドルのメーカーのセールスマネージャーと会って」
私の表情から何かを察したのでしょう。
彼は受付にいる案内嬢を呼んで、Bobを呼んでくるよう指示しました。
そして別のスタッフを呼び
「わしゃ自分のお客さんがいるから、あとは彼と話しなさい」
と引き継ぎをしてくれました。
ありがとう。
私は商談の邪魔をしてしまったことを彼と彼のお客様に詫び、
今日はじめて会うスタッフさんに自己紹介をしました。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
「初めまして。私は日本から来ました。そして日本に住んでいます。
('I came from Japan.'とだけ言うとルーツなのか住居なのか識別がつかないようで
'Do you live in Japan? 'と聞かれることが多かったので2日目から付け加えるようにしていました)
私はこの見本市の初日にこのブースに来て、このキャンドルをとても気に入りました。
でもOpen Price(最低注文金額)が私には少し高くて、迷っていたらBobに’できるさ’と励まされました。
そして今日先ほど、臨時出展ブースでもこのキャンドルを見つけて、日本に輸入にできるか聞いたのです。
すると彼はメーカーのセールスマネージャーで、日本への輸出はイギリスの代理店を通さなければいけない。
Bobの代理店は日本へキャンドルを売ることを禁止されていると言いました。
私はトラブルを望みません。
Bobに、日本へ輸出できることを約束していないと言って欲しいんです」
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜
なんとか伝え終わった時、どこからともなくBobがやってきました。
「ああ、Bob!
私はトラブルを起こしてしまうことを恐れています。
私は今日、このキャンドルメーカーのセールスマネージャーに会いました。
彼は、えっと」
私が言葉に詰まっていると、先ほど相手をしてくれたスタッフが、
早口の英語で手短にBobに伝えてくれました。
Bobは言いました。
「わかった、わかった。でも何も問題はない。
まずは落ち着いて。そこに座って。そうだ、コーヒーとクッキーはどうだい?」
私はここ数日間で、スタッフは何よりもブースの雰囲気づくりに心を砕いていることを学んでいました。他のお客様もいる前で取り乱してもらっては困るのでしょう。
とにかく伝えるべきことは伝えたし、彼に従ってコーヒーをいただこうかな、と思った瞬間、
あのセールスマネージャーがやってきました。
彼はすぐに私を見つけ、不敵に微笑みました。
「やあ、また会ったね」
そしてBobに向かって「Bob、きみに話がある。契約についてだ」と言いました。
私が聞き取れたのはここまで。
すぐに2人は激しく言い合い始めました。身振り手振りが大きく、どんどんお互いの顔が近づいてゆきます。英語は全く聞き取れません。でも、よくない雰囲気であることは確かです!
「ちょっとまって、誤解があります」
私が口を挟もうとすると、先ほどのスタッフが私の前に回り込みました。
彼はウインクをしながら、ことさらゆっくりと話します。
「マドモアゼル。折角ですから私たちのキャンドルをゆっくりご覧になりませんか?
私はこのキャンドルを3年間売っています。
このキャンドルに関することなら、なんでも質問に答えられると思いますよ」と。
むむむ。
私はここを立ち去った方がよいようです。
私は深呼吸をしてから、彼に従うことにしました。
「それはいいアイデアですね。お願いします。
けれど、私はマドモアゼルでなくマダムですのよ。ムッシュー?」
「おや、それは失礼しました。マダム、こちらへどうぞ」
彼はにやりと笑いながら私をエスコートし、大きな棚の向こう側へ案内してくれました。
棚の向こう側へついた私たちは、顔を見合わせて笑いました。
「ムッシュー、ありがとう。
あなたのおかげで最悪の事態は避けれたみたい」
「どういたしまして、マダム。
でも私はまだあなたの名前も知らないんですよ」
そういえばそうです。私はあわてて名刺を差し出しました。
彼も私に名刺をくださいます。
私は改めて自己紹介をし、お詫びをしました。
「私は日本でグリーフケアのギフトを販売する仕事をしたいと思い、起業したばかりです。
昨年まではITエンジニアでした。
私はこの業界についてよく知らないし、アメリカの見本市に来るのも初めてです。
私のせいで、あなたのボスの立場が悪くならなければよいのですが」
「へぇ、そうだったのですか。でもあなたの対応は適切でしたよ。
彼は今、OpenPriceについて話しただけだとマネージャーに弁明しています」
私の相手をしながら聞き耳をたてているとは。なかなか有能なスタッフのようです。
「そうなんですね。あなたがBobへ手短に話してくれたおかげです。
ありがとう」
一気に打ち解けた私たちはいろいろな話をしました。
彼はフロリダ半島のタンパに住んでいるということ。
海と太陽がきれいな街だそうです・
そして、タンパでこのキャンドルの代理店をしていて、
このアメリカズマートの期間中だけセールスの応援に来るのだそうです。
(タンパはアトランタのずっと南。フロリダ半島の真ん中東側にあります。
数日前までサッカー日本代表がキャンプをしていた土地です。)
そして、このキャンドルについていろいろと教えてくれました。
一番人気があるのは香り。定番商品の香り。
クリスマスシーズンによく売れる香り。
アメリカではキャンドルはキッチンやリビングで使う物だ。
などなど。
そして、このメーカーの代理店に対する数々の素晴らしいサービスを教えてくれました。
OpenPriceは少々高いけれど、木製の什器が無料でサービスされること。
アメリカ国内なら送料は全て無料で、どの代理店から買ってもメーカーから直送されること。
そして販売店内を競わせサポートする様々なコンクールのこと。
かなり完成されたビジネスモデルを構築している会社だと感じました。
私はため息をついて言いました。
「聞けば聞くほど魅力的なキャンドルと会社です。
私もこのキャンドルを日本で売りたい。
でも、私はイギリスの代理店を通じて買わなければならないのでしょうか?」
彼は残念そうに言いました。
「アメリカでは契約は絶対ですからね。
それにセールスマネージャーの言うことを覆すのは難しいでしょう。
オーナーの意向でも変えないない限り」
アメリカ社会における契約の大切さは私も知っていました。
私は、13年間アメリカ系のコンピューターメーカーで働いていたのです。
「契約書に書いた期日は何が何でも守る義務がある。
契約書に書いてないことを勝手にやる権限はない」
そんなトレーニングを長年受けてきました。
私がその難しさを崩せることができるとすれば、グリーフケアギフト事業にかける想いだけです。
私は彼に起業の動機を説明しました。
日本では、毎日仏壇にお線香やろうそくを灯す習慣があること。
けれどろうそくには香りがなく、無個性であること。
家族を亡くした時に、もっと個性のある線香やろうそくがあればよいのにと思ったこと。
そして、このろうそくは私のコンセプトにぴったりだということ。
などなどと。
彼は私の話を、ところどころ質問をしながら、じっくり聞いてくれました。
そしてしんみりと言いました。
「それは素敵なビジネスプランだね。
あなたが私のようにBobからこのキャンドルを買えるとよいのだけれど」
その時、にわかに棚の向こう側が賑やかになりました。
私と彼は顔を見合わせました。
さきほどまでけんか腰だったセールスマネージャーとBobが仲睦まじく、
小柄な若い男性をうやうやしく囲みながらこちらへやってきました。
「ようこそおいで下さいました」
「売り上げは順調ですよ」
「今日は日本からのバイヤーも来ているのです」
「ええ、我々のキャンドルに興味があるとかで」
セールスマネージャーとBobは笑顔で話しています。
先ほどまでの険悪な雰囲気は一体どこへ?!
そしてこの男性は何者なのでしょう?
私とスタッフが戸惑っていると、その若い男性が私に握手を求めてきました。
顔を見ると、文句のつけようがないイケメンです。
彼は何か英語で自己紹介したようなのですが、私は聞き取れませんでした。
そして、彼ら3人はあわただしく商談へと戻って行きました。
私は、ずっとついていてくれたスタッフに助けを求めました。
彼はぽかんとした顔をしています。
「ねえ、あの人は一体なんだったの?」
「Oh my God ! 彼はオーナーだよ!このキャンドルの創始者の息子で今のオーナーだよ!
僕は3年間このキャンドルを扱っているけれど、今日はじめて会ったよ!!」
えぇっ。あの若者がオーナー?!
「本当だよ、僕が君にさっき渡したカタログ。
この1ページ目に載ってるでしょ」
分厚いカタログをめくると先ほどの彼の写真がサイン入りで載っていました。
どうやら本当のようです。
しかし彼はこの会社のオーナーにしては若すぎです。学生にさえ見えます。
「君は正しい。彼は昨年まで大学生だったんだ。
彼は3年間でこの会社をここまで大きくしたんだ。」
なんとまぁ。そんな学生起業家がこの会社のオーナーだったとは。
驚きましたが、驚いている場合ではありません。
これって、大変ラッキーなチャンスなのではないでしょうか。
私の頭には「エレベータースピーチ」という言葉が浮かびました。
会社員時代に新人研修で習った言葉です。
新人研修の講師はこう言っていました。
”常に自分の仕事の問題点を1分間で話せるようにしておきなさい。
あなた達はI社の社員として、キーパーソン(自社の社長やお客様の偉い人)に突然会って話す機会があった際に、端的に課題を説明する必要があります。
これをエレベータースピーチと言います。
この業界には、エレベーターなどでキーパーソンと一緒に乗り合わせた際に手短に話し、抜擢のチャンスを得た人がたくさんいます。
現実には、そんなチャンスが訪れることはめったにありませんが、この習慣を身に付けることによって常に大局的な観点から自分の仕事を眺めることができます。
端的に自分の仕事の問題点と解決策を話せるように、日ごろから考える習慣を身に付けるようにしなさい。”
ピカピカの無邪気な新人社員だった私は、この話を気に入り、
通勤電車の中で「今の仕事の一番の問題点と解決策」と考えるのを日課にしていました。
会社員時代にはついぞその機会に恵まれなかったエレベータースピーチのチャンスが、今私の目の前に。
私はタンパから来た彼に相談しました。
「ねぇ、私はオーナーと直接話をしたい。1分だけ時間をもらえないかしら」
さすがの彼もうろたえます。
「どうなんだろう。僕にはそんな権限はないし、彼はとても忙しい人だと聞いているよ」
興奮さめやらぬ私たちが作戦会議をしていると、イケメンオーナーが一人でやってきました。
今度は私にだけ握手を求め「先ほどは失礼しました。お会いできてうれしいです」とおっしゃいます。
私はすかさず彼を見つめながら言いました。
「私は、自分があなたのキャンドルを日本に紹介するのにベストな人間だと思います。
私に1分だけ時間を下さい」
彼は私の迫力に驚いたようで、うなずきました。
「OK、話を聞きましょう」
私の背後にいたスタッフが息をのむ音が聞こえました。
私のエレベータ―スピーチの始まりです。
☆.。.:*・゜☆ 続きます。
アメリカズマートのバイヤーズガイド。
私は毎晩ホテルでこの電話帳のように厚い冊子と格闘していました。
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