2014年9月30日火曜日

ANNA GRIFFINのカード(8)商談

お取引に至らなかった、とあるキャンドルメーカーとの交渉のお話その6です。

【今までのお話】
ANNA GRIFFINのカード(1)出会い
ANNA GRIFFINのカード(2)カタログをください
ANNA GRIFFINのカード(3)キャンドルメーカー
ANNA GRIFFINのカード(4)エレベータースピーチ
ANNA GRIFFINのカード(5)エレベータースピーチ2
ANNA GRIFFINのカード(6)作戦会議
ANNA GRIFFINのカード(7)英語プレゼン準備

☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜

ミプロのミーティングが始まりました。
ミプロはの正式名称は一般財団法人 対日貿易投資交流促進協会。
小口輸入をサポートする公的な組織です。

ミプロは、商売をされている法人を対象に海外の見本市へのツアーを開催しています。
職員の方に「個人の参加は難しいのでしょうか」と相談したところ
「過去には個人でも参加した方がいるので、申し込んでみては?」と言われ、
私は様々な書類を作成し、参加権をゲットしたのでした。

【参考】ミプロHP:http://www.mipro.or.jp
※このツアーは例年行われる予定です。詳細発表は11月頃の様子。


ツアーは現地集合・現地解散ですが、
見本市主催団体から、隣接するホテルに3泊分の無料宿泊のプレゼントがあります。
そして、ミプロの貿易アドバイザーさんが商談に同行してくださるという、初心者に嬉しい特権があります。

超初心者の私は、バンコクでの見本市での経験から、
3日間では商品を見極めを行うことができないと判断し。
個人的にツアー開催の5日も前から会場入りしてこの日に備えてきました。

ミーティングは、代表のあいさつと注意事項・商談の進め方と参加者の自己紹介が主なアジェンダでした。
参加者は1人あたり2回、貿易アドバイザーさんの商談同行サービスが利用できると説明がありました。
既に商談希望日時が決まっている私は、早速「今日の午前と午後2時」のアテンドを予約しました。
明日はもう同行してもらえなくてもいい!と割り切ります。

午前中は、もう1つ気になっている商品がある会社との商談に宛て、例のキャンドルメーカーを下見。
そして約束の午後2時。

私は、お昼ごはんもバイヤーラウンジで振る舞われる軽食で済ませ、
ぎりぎりまで修正したプレゼン書類を持って、あのキャンドル会社のブースへ向かいました。
緊張しますが、経験豊富な貿易アドバイザーさんが一緒なので心強いです。

既に、ブースのテーブルには、昨日会ったイケメンオーナーとセールスマネージャーが着席していました。
書類を広げ、何やら数値を書き込みながら話し合っていました。忙しそうです。

先方2名・当方2名の合計4名で挨拶を交わしながら、
さっそく貿易アドバイザーさんが今回のミプロツアーについて説明してくださいました。

「我々は公益団体で、今回はアメリカ大使館商務部の招待でアトランタに来ている。
Ms.Katoは特別に審査を通過した有望な起業家である」とさりげなくPRしてくださいます。

最初に態度が変わったのはセールスマネージャーでした。
彼は、瞬時に貿易アドバイザーさんの英語力と経験値を見ぬき、私を無視して会話を始めます。
手短に、商品と会社の概要を説明し、すぐに取引条件に話題が移動します。

展開が早い。
これがプロ同士のスピードなのでしょう。

私は商談主として、ぼーっと成り行きを見守っている訳にいきません。
おいてきぼりをくらった格好のオーナーに、持参した資料をお見せします。

1枚目の資料のタイトルは「御社の物流の最適化を提案します」。

世界地図に、キャンドルメーカーの本社工場・アメリカ某州、イギリスの代理店の場所、そして私の名古屋をポイント。
それぞれのポイントの間を曲線でつなぎ、所用マイルが付け加えました。

ネットを使って、各ポイントの住所まで調べたので、おざなりな地図ではないことが分かります。
また、地図は日本式の太平洋を中心とした地図を選んだので、
アメリカ人にとっては普段とは異なる視点で世界を見ることになるよう工夫してあります。

貿易アドバイザーさんがセールスマネージャーに「彼女の為に、特別に直接取引してくれないか」と言ったところ、
セールスマネージャーが顔色を変えてまくしたてはじめました。
「既にある契約は変えられない。オーストラリアだって韓国だってイギリスの代理店を通じて取引してもらっている。
我々は南北アメリカ内の取引に集中することでグループの結束を図ることを優先しているのだ」
というようなことを話しています。

半分は聞き取れていないと思いますが「コントラクト(契約)は絶対だ」という単語は確かに聞き取れました。

まだ私が何も話していないのに、会話が白熱しすぎています。
当事者として介入のタイミングです。何か言わなくちゃ。

私は「ちょっとまってください」と言いかけましたが、英語を組み立てているうちに一瞬言葉が詰まりました。

その時、思わぬ援護者が現れました。

私の資料を意外な様子で見ていたオーナーが私の様子に気づき、沈黙を破って
「彼女の主張はちょっと違うみたいだよ」と声をかけてくれたのです。

セールスマネージャーと貿易マネージャーさんがはっと黙り、こちらに視線を送ります。
会話の主導権をつかむチャンスです。

私は資料をセールスマネージャーにも渡しながら、流れを離さないように話し続けます。
「私は商流でなく、物流についてお話をしたいです。
この地図のように、御社から日本へは直接輸送した方が効率がよいはずです。
既にある契約を変えることが難しいのは知っています。
私は13年間IBMで働いてきたので、アメリカ社会における契約の重要性を理解しています」

セールスマネージャーが「フン」と私を一瞥し何か言いかけたのを遮って、
オーナーがゆっくりと私に説明しました。

「あなたの言うことはもっともだが、実際に今我々が日本へ輸出するとなると、
輸用会社の契約により、サンフランシスコを通さなければならない。
本社工場のある州からサンフランシスコまでの距離と、
ロンドンへの距離はあまり変わらないのです」

は?サンフランシスコ??
いきなりサンフランシスコと言われても、ゴールデンゲートブリッジとナパバレーと、
チャイナタウンの飲茶しか思い浮かびません。

理解できない私を察知した貿易アドバイザーさんが、すかさずオーナーに聞き返します。
私にも分かるように簡単でゆっくりとした英語です。

「サンフランシスコですか。それは船便だからでしょうか?
なるほど。なるほど。ご契約されている運送会社との取り決めですね。

しかし契約を変えることは難しくても、彼女が主張する物流だけを変えるという提案は
考える余地があるのではないでしょうか。
あなた方も御存知の通り、商売を始めるというのは様々な困難があります。
ビジネスをはじめたばかりの人間にとって輸送コストは大きな問題です。
はるばる日本から来た彼女に、チャンスをあげてみませんか?」

オーナーは頬杖をついて何か考えているようでした。
セールスマネージャーは成り行きを見守っています。表情は相変わらず不服そうですが。

私も必死で言い添えます。
「韓国やオーストラリアの販売会社もそれを望んでいるのではないでしょうか。
我々のビジネスだけでなく、エコロジーのためにも」

実際には昨夜、一生懸命辞書をひきながら考えぬいたセリフですが、
当意即妙に受け答えしたように聞こえます。

「エコロジー?」とオーナーとマネージャーが聞き返します。
「エコロジカル、環境」貿易アドバイザーさんが補足し、
私はあわてて「グリーントレードだ。未来の為にも環境のことを考えないと」付け加えます。

「エコロジーか。なるほど」
オーナーが笑みをこぼしました。

あら、ちょっと付け焼刃がばれちゃったかしら。

場の空気がほころんだ直後、オーナーが笑顔のまま切り込んできました。

「2トン。

では、2トンでどうでしょうか。
2トン購入できるなら、あなたの提案を受け入れます」

オーナーは頬杖をついてあごのしたで手を組みじっと私を見つめています。
私の表情のどんな変化も見逃さないようにしているのでしょう。

しかし私は「2トン」という言葉を聞いた途端、途方にくれてしまいました。

2トン・・・・?
2トンてどれだけの量なんだろう。
重さは分かるけど、体積は?
あ、2トントラックくらいの大きさなのかな・・・?

私には、かろうじて状況を把握するだけの分別が残っていました。
表情を変えないよう、頑張って涼しいまま顔のまま「1分ください」と英語で言った後、

日本語に切り替えて貿易アドバイザーさんと内緒話です。

「2トンて一体いくらくらいなんでしょう」
「さあ。でも金額じゃなくてハンドリングの問題だよ。買っても売れないのでは?」
「資金はありますが、保管する場所がありません」
「最初の取引での無理は禁物です。冷静に」
「そうですよね」

そして改めて表情をつくり、オーナーに向かって言いました。
「私は、2トンは買えません。今は」
かろうじて「今は」を付け加えるのが、精一杯の虚勢です。

オーナーは微笑を残したまま眉の両端をわずかに下げ、残念そうに言いました。
「分かった。じゃあ仕方ない。
イギリスのリチャードと交渉してくれ」

セールスマネージャーはシニカルに笑いながらちゃっちゃと書類を片付け始めます。
「はい、終了!」とばかりに張り切って。


ちょっとまって!

私の本題が残っています。

私は「もうちょっとだけ待って」と言いながら、慌てて
1枚目の資料をめくって2枚目の資料を見せました。

2枚目の資料は「私をリチャードに推薦してください」というタイトルで、
「取引への想いと、連絡先」が書いてあります。

さっと目を通したオーナーがにやりと笑いました。
「こいつは最初からこれが目的だったのか」と理解したようです。
英語の資料を用意しておいてよかった。
口頭だと1分はかかるところを、資料を見せるだけなら数秒で済みます。

「OK,わかりました。
リチャードに連絡しておきましょう」


切り上げのタイミングです。

私は席を立ち、オーナーに握手を求めながら言いました。
「チャンスをくれてありがとうございます。
数年後には直接取引していただけるよう頑張ります」

貿易アドバイザーさんが付け加えます
「代理店の方に彼女が有望な起業家であることを言い添えてくださいね」
と。


私たちは握手をかわし、ブースを去りました。

広いアメリカズマートの中を歩いて、バイヤーズラウンジに戻ります。
貿易アドバイザーさんは、この後すぐに他の参加者の方の商談に同行される予定になっています。

ラウンジに戻った私は、改めて貿易アドバイザーさんにお礼を言い、
次の商談に向かう一団を見送りました。

私はドリンクコーナーにあったホットチョコレートで一息つくことにしました。
休憩コーナーのゴージャスなソファーに腰をおろし、ゆっくりと暖かいチョコレートドリンクを
口に含みます。

・・・・美味しい。

甘いカカオの香りが、私の高ぶった神経を和らげてくれました。

「とりあえず、今の自分にできることは全てやった」

そう思った瞬間、どっと疲れが押し寄せてきました。


☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜


続きます。

写真はツアー最終日の記念撮影。
貿易アドバイザーさんとバイヤーズラウンジにて。

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