2015年7月16日木曜日

思い入れのある場所

先月末、自宅兼事務所を移転しました。

私にとって旧居は、結婚生活のほとんどを過ごし、息子と住んだ唯一の家。
もっと感傷的になってしまうかと危惧したのですが、幸か不幸か公私ともに多忙を極めたため、それどころではありませんでした。

怒涛のような引っ越しが終わり最後の掃除を済ませた後、様々な事情がかさなり
一人っきりで空っぽの家にぽつんと滞在することになりました。

一通り部屋を見て回った後、私の足が自然に向かったのはキッチン。

夕刻の台所に佇んでいると、様々な日々が思い出されてきました。

つわりと戦いながら職場から帰った後に必死で料理した日々。
新生児育児の合間に曲芸のように昼食をつくった日々。
私が料理をするのをベビーチェアに座りながら満足げに眺めていた息子。
離乳食に悩み食べてくれなかった食器を洗いながらため息をついた日々。
入院が決まった夜に不安になりながらも、いつもより手間をかけて夕食をつくったあの日。
半年ぶりに一時帰宅したものの、料理をする暇がなくお湯を沸かしてお茶だけ淹れた日。
退院後、食事の後片付けをする夫を三脚にのぼって見るのが好きだった息子。
容体が急変し病院を死亡退院したものの現実が理解できず息子の分も盛り付けてしまったあの日。
食欲をなくした夫に何か食べさせなければと義務感で台所に向かった日々。
夕食をつくることだけが「私のやるべきこと」だった日々。
職場復帰後、倒れそうになりながら夕食をつくった日々。
創業を志しタイへ渡り、帰国した日にまずお味噌汁を作ったあの日。
初めての受注を記念して、昼間から煮込み料理を作った日。
事業計画書作成に煮詰まる度に台所で現実逃避した日々。

「私はどんな日にも欠かさず台所に立っていたのだ」と灌漑深くなり
「自分にとって一番思い入れのある場所が台所だったとは意外だ」と唸ってしまいました。

内に内に篭り、喜びも悩みも挫折も沢山味わった10年間。
どんな日も、私はとにかく台所に立っていたのです。

曲がりなりにも社会復帰を果たし、最近はとにかく多忙な日々を送っていたため忘れがちだった過去。
「よくここまで回復できた。我ながら頑張ったなぁ」と、改めて自分に感心してしまいました。

自分の実力不足で歯がゆい思いをすることも増えてきただけに、
最後の最後に、自分一人で振り返りを行う時間が与えられたのは、
誰かからの何かのプレゼントだったのかもしれない、と思いました。




新居では、碧香堂事業の為のスペースをしっかり確保。
来客があっても慌てず打ち合わせができ、いつでも取材が受けられる体制も整いました。

思いもよらず歩むことになった創業の道ですが、初心に戻って頑張ろうと密かに決意しました。

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